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TNFD提言に基づく情報開示

自然資本への対応

西武グループは、グループの経営理念である「グループビジョン」に基づき、自然環境や地球環境への配慮を重視し、事業を通じて環境保全に積極的に取り組んでいます。また、気候変動にとどまらず、自然関連のリスクも重大なリスクとして認識し、これらのリスクに対する対応策を講じるとともに、関連する機会を活用するための取組みも推進しています。
西武ホールディングスでは、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)が2023年9月に公表した開示提言に賛同し、提言を採用する「TNFD Adopter」に登録しました。また、TNFDフォーラムにも参画しています。
西武グループでは、昆明・モントリオール生物多様性枠組の2050年ビジョン「自然と共生する世界」の達成に向け、2024年3月に「西武グループ ネイチャーポジティブ宣言」を策定したほか、「生物多様性のための 30by30 アライアンス」に参画しています。また、生物多様性の保全や自然資本の維持に向けた取組みとして、社有林・里山の保全、傷ついた野生生物の救護、不動産施設周辺の自然環境整備などを行っています。
今回、TNFDが推奨するフレームワークに基づいて、当社グループの事業における自然への依存と影響の特定、およびリスクと機会の分析・評価を実施しました。これにより、当社グループの事業において、サプライチェーン全体で一定の依存と影響およびリスクが確認されるとともに、大きな機会があることもわかりました。分析結果を踏まえ、リスクの低減に向けた取組みが重要なことは勿論ですが、当社グループとしては、自然資本への貢献とともに特に自然関連のビジネスチャンスを獲得していくことが重要であると認識しました。
今後もこれらの取組みを推進していくとともに、引き続き自然関連のリスク・機会の把握と、TNFD提言に準拠した情報開示に努めていきます。

ガバナンス

当社では、持続可能な社会の実現に向けた取組みであるサステナビリティアクションを持続的・積極的かつ体系的に進めるため、「西武グループサステナビリティアクション推進体制規程」を制定し、推進体制を整備しています。CEOが委員長・議長を務め、社長執行役員兼COOをはじめ、サステナビリティアクション推進およびグループ経営計画策定の主幹部署である経営戦略部担当執行役員や当社グループ主要事業会社社長により構成される「西武グループサステナビリティ委員会」では、気候変動や自然関連のリスクと機会を分析・評価し、リスクは適切に管理し、機会はビジネスチャンスに変える対応方法の議論を行うとともに、自然関連の取組みのモニタリングおよび方向性の決定を行っています。
なお、TNFDでは自然との関連性において先住民族や地域社会へのエンゲージメントも重要視されております。当社グループでは、グループの経営理念である「グループビジョン」にて、地域社会への発展に貢献することを掲げるとともに、グループの基本的なルールとなる「西武グループ企業倫理規範」にて広くステークホルダーとの関係性を構築することを定めております。また、事業活動に関わるすべての人の人権を尊重することを定める「西武グループ人権方針」や調達活動での人権尊重、環境への配慮を定める「西武グループサステナブル調達方針」および「西武グループサプライヤーガイドライン」に則って人権デュー・ディリジェンスを実施し、その対応状況に関しても本委員会にて報告を行っております。
また、本委員会における議論の内容については取締役会に報告しています。

戦略

当社では、TNFDが推奨している「LEAPアプローチ」に沿って、自然関連のリスクおよび機会の評価を実施しています。今回は自然との関連性の大きい「不動産事業」「ホテル・レジャー事業」※を対象に、評価作業を進めました。
※ENCOREを用いて「都市交通・沿線事業」の依存・影響を簡易的に評価した結果、「不動産事業」「ホテル・レジャー事業」に比較して、相対的に自然との関連性が大きくないことが判明しました。

STEP1: 自然との接点の発見(Locate)

当社グループが保有運営し、営業活動を行う拠点の位置情報を把握し、その周辺にある自然の状態などを評価しました。

STEP2: 依存と影響の診断(Evaluate)

当社グループの評価対象事業における重要な自然への依存と影響を特定し、その大きさを評価しました。

STEP3: リスクと機会の評価(Assess)

当社グループの評価対象事業における自然関連のリスク・機会を整理しました。

STEP4: 対応と報告の準備(Prepare)

評価したリスクを管理し、機会をビジネスチャンスにつなげていくための対応策を整理して、適切な情報開示に向けた準備をしました。

依存と影響の評価

当社グループの評価対象事業における重要な自然への依存と影響を特定し、その大きさを評価しました。TNFDが推奨するツール・ENCOREや社内情報等を参考にして評価を実施し、ヒートマップで結果を整理しました。
直接操業では、文化的サービスへの依存が大きいことが分かりました。当社グループが管理・運営するオフィスビルや商業施設のなかには、敷地内や周辺に緑地がある拠点も多く存在します。それらの拠点では、豊かな緑が利用者の訪問やそのエリアの魅力向上などにもつながることが期待され、自然の持つアメニティやふれあいの場の提供などの機能に依存していると言えます。また、周辺の四季折々の自然の観察・体験や森林浴などを目的に当社グループが管理・運営する施設にご宿泊いただくお客さまも多く、観光資源となる自然に依存していると言えます。
上流では、オフィスビルや商業施設の建設に必要な建材や、ホテルで提供する食材の調達が、多くの自然への依存・影響を伴っていることを再確認しました。当社では2022年に、「西武グループサステナブル調達方針」および「西武グループサプライヤーガイドライン」を策定し、当社グループはもとより、協力企業の事業活動における生態系等への配慮にも働きかけを行っています。また、資源循環の取組みなども実施しており、サプライチェーン全体における自然への依存・影響の把握・対処を進めています。

リスクと機会の評価

依存と影響の評価結果および当社グループの事業特性を踏まえて、当社グループの評価対象事業における自然関連のリスク・機会を整理しました。
自然関連のリスクとしては、周辺の生態系の劣化などに伴う資産価値の低下などの物理リスクや、自然保全に関する土地利用の規制強化、自然関連の価値観の変化によるステークホルダー離れなどの移行リスクが挙げられました。また、サプライチェーン上流においては、建材や食材の調達リスクなどが挙げられました。
他方で、当社グループにとってのビジネスチャンスや地域にとってプラスの影響を与える取組みなどの自然関連の機会も多く特定されました。緑地などを有する環境配慮型の不動産や、エコツーリズムや自然と調和したホテル運営を行うことによる新規ニーズの獲得、生態系の保全による地域のステークホルダーとの関係性構築などが挙げられました。また、これらの機会を最大化する上では、西武造園の有する緑化技術や、日本を代表する観光地に持つ土地や社有林の活用などが重要になると考えられました。さらに、西武造園の有する技術や知見に関しては、今後さらにニーズが高まると考えられる生物多様性や自然資本に配慮した設計による売上増につながることなども機会として挙げられました。

当社グループの事業の直接操業における自然関連のリスク

分類 項目 影響内容
物理リスク 急性 異常気象激甚化に伴う事業への影響 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●台風、洪水、土砂災害、降雪量減少による休業や稼働率低下による売上減
●台風、洪水、土砂災害、降雪量減少による施設・設備の修繕コスト増
慢性 温暖化に伴う事業への影響 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●気温上昇・ヒートアイランド現象による出控えに起因した売上減、エアコン稼働の増加によるコストの増加
生態系の劣化に伴う事業への影響 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●自社および他者の土地開発に起因した、開発地周辺の生態系の劣化・景観悪化等による、資産価値低下
●病害虫の発生や野生鳥獣の食害による社有林の劣化、社有林の適切な管理の不足による対応コスト増、社有林活用の停滞
<ホテル・レジャー事業>
●気温上昇や土地開発、獣害、病害虫などにより周辺の生態系が劣化し、観光資源となっている自然・景観や地産地消の食材に悪影響を与え、施設の魅力が低下し、売上減
生態系の劣化等に伴う水資源の減少 <ホテル・レジャー事業>
●生態系劣化に伴う水循環の不安定化による取水量確保の困難化
移行リスク 政策法規制 緑地や土地利用規制強化 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●環境配慮や緑地に関する認証の取得に伴うコスト増
●緑地のメンテナンスコスト増
30by30に向けた保護地域面積の増加や、土地利用の規制強化による新しい土地の取得の困難化
自然への影響に関する規制強化 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●保全上重要な地域における取水や汚染などの自然への影響に関する規制強化に伴う対応コスト増
●食品ロス削減やプラスチック等の資源循環規制強化による対応コスト増
市場評判賠償責任 価値観の変化によるステークホルダー離れ <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●環境認証未取得・環境負荷が高い・緑地割合の低い事業所における稼働率、単価の低下
●保全上重要な地域に影響を及ぼしうる開発によるレピュテーション低下や計画変更のリスク
食品ロス削減やプラスチック資源の適切な利用に関してのレピュテーションリスク

当社グループの事業の直接操業における自然関連の機会

分類 項目 影響内容
機会 水資源の保全 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●排水・雨水の再利用などによる水資源の使用量抑制に伴うコスト削減やレジリエンス向上
廃棄物の削減や資源循環 <ホテル・レジャー事業>
●廃棄物削減、資源循環の取組みによる廃棄コストの減少や新しい価値の創出
社有林の有効活用 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●社有林を活用したバイオマス発電事業、間伐材の活用、森林ビジネスやグリーンインフラなどの推進
環境負荷が低く緑豊かな施設やまちの選好 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●環境認証取得済・環境負荷が低い・緑地割合の高い不動産における稼働率、単価の上昇
●敷地内緑地におけるグリーンインフラなどを活用することで、災害リスク低減やエアコンの稼働を減少させ、コストを低減
自然を生かしたまちづくりによる、当社グループのレピュテーション向上および地域全体のブランド価値や地価の向上
緑化技術ニーズの高まり <不動産事業>
●特殊緑化や壁面緑化技術などの造園工法や、生物多様性や自然資本に配慮した設計に関する知見の提供による売上増
投資家の選好 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●サステナビリティの取組みが評価されることによる資金調達コスト減、株価への好影響
生物多様性保全活動の推進 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●「西武の森」や事業地および事業地周辺などにおける地域と連携した自然保護活動の実施により、レピュテーションや地域コミュニティとの関係性が向上し、事業活動も円滑化
エコツーリズムや自然と調和したホテルのニーズ高まり <ホテル・レジャー事業>
●地域の自然を生かしたエコツーリズムや、周辺の豊かな自然環境と調和したホテル運営による売上増
政策的支援とインセンティブの受益 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●緑化や自然資本保護に関する政策的な支援やインセンティブの受益
自然環境に配慮したアメニティの利用 <ホテル・レジャー事業>
●環境配慮素材を利用したアメニティや、使い捨てプラスチックアメニティの削減によるレピュテーション向上

当社グループの事業のサプライチェーン上流における自然関連のリスク

分類 項目 影響内容
物理リスク 急性 異常気象激甚化に伴う調達物への影響 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●台風、洪水、土砂災害による、建材調達の不足・コスト増
●<ホテル・レジャー事業>
●台風、洪水、土砂災害による、農作物・水産物調達の不足・コスト増
慢性 温暖化や生態系の劣化に伴う調達物への影響 <ホテル・レジャー事業>
●温暖化や生態系の劣化に伴う、農作物・水産物調達の不足・コスト増
移行リスク 政策法規制 持続可能な調達の対応コスト増 持続可能な調達の対応コスト増
●建材の持続可能性対応やトレーサビリティ把握などによる調達コスト増
<ホテル・レジャー事業>
食材の持続可能性対応やトレーサビリティ把握などによる調達コスト増
技術 自然に配慮した建築技術、工法への対応コスト増 <不動産事業>
●自然に配慮した工法への対応を行うための工事コスト増

当社グループの事業のサプライチェーン上流における自然関連の機会

分類 項目 影響内容
機会 持続可能な建材利用 <不動産事業、ホテル・レジャー事業>
●自然環境に配慮した方法で生産された建材の利用による資産価値向上
持続可能な農作物・水産物利用 <ホテル・レジャー事業>
●自然環境に配慮した方法で生産された食材の利用によるブランド価値向上

優先地域の評価

当社グループが保有運営し、営業活動を行う国内拠点の評価対象として、その周辺にある自然の状態などを評価しました。評価作業は、TNFDが定義している5つの基準(保全重要度、生態系の完全性、生態系の完全性の急激な劣化、水関連の物理リスク、生態系サービスの重要度)に沿って、外部ツールなどで得られるデータ※を用いて、拠点ごとに実施しました。

 

※ 5つの基準に沿った評価は、以下のデータおよびツールを用いて実施しました。


❑保全重要度…IBATを用いて、保全重要度が高い地域(保護地域とKey Biodiversity Area)との近接状況、STAR(Species Threat Abatement and Restoration Metric)の値を確認して評価。


❑生態系の完全性…Natural History Museumが提供している、Biodiversity Intactness Index(生物多様性完全度指数)を用いて評価。

 

❑生態系の完全性の急激な劣化…WWF Biodiversity Risk Filterが提供している、自然への影響の大きさを示す指標である、Pressures on Biodiversityを確認して評価。


❑水関連の物理リスク…Aqueductを用いて、ベースライン水ストレス、洪水リスク(河川・沿岸)を確認して評価。


❑生態系サービスの重要度… Global Forest Watchを用いて、先住民族・地域コミュニティ(IPLCs:Indigenous Peoples and Local Communities)が管理する地域との近接状況を確認して評価。


評価結果の傾向を見ると、TNFDの5つの基準のうち、保全重要度と生態系の完全性が高いエリアがあることが分かりました。水リスクや生態系の完全性の急激な劣化については、特に高い拠点はありませんでした。リゾートエリアの拠点では保全重要度や生態系の完全性が高い傾向にあり、特に軽井沢エリアと伊豆・箱根エリアの拠点で高くなっていました。都市近郊の不動産事業の物件は、生態系の完全性は相対的に見て低い傾向でしたが、西武鉄道沿線の埼玉県内の拠点(以下、沿線埼玉エリアという)では、保全重要度がやや高くなっていました。以上を踏まえて、軽井沢エリア、伊豆・箱根エリア、沿線埼玉エリアの3エリアを優先地域と定めました。

優先地域の特徴と主要なリスク・機会、今後の取組み

優先地域の3エリアにおけるリスク・機会、今後の取組みを深掘りした結果は以下のとおりとなりました。

リスクと影響の管理

自然や気候変動などのサステナビリティに関するリスクは、西武グループサステナビリティ委員会において抽出し、分析・評価されたリスク・機会については、「サステナビリティアクション推進体制」において対応するサステナビリティアクションおよび「リスクマネジメント体制」において対応するリスクマネジメントにて、適切に対応しています。また、自然や気候変動などのサステナビリティに関するリスクについては「西武グループリスクマネジメント規程」に基づき、毎年策定している「リスクマネジメント計画」において特に重要なリスクとして設定しており、全社的なリスクマネジメントに統合し、管理を行っています。

指標と目標

当社グループは、環境パフォーマンスをモニタリングし、一部指標では目標を設定しています。なお、現時点でのTNFDグローバル中核開示指標については以下のとおりです。

モニタリング状況 目標設定状況 TNFD開示指標との関係
社有地の環境保全地区化率をモニタリングして開示 2030年度までに社有地全体の30%※1 グローバル中核開示指標 C1.1
産業廃棄物排出量や食品廃棄物量をモニタリングして開示 各原単位の前年度比減※2 グローバル中核開示指標 C2.2
特定プラスチック使用製品購入量をモニタリングして開示 原単位を2030年度までに2018年度比50%減※1 グローバル中核開示指標 C2.3

※1 西武リアルティソリューションズが対象

※2 産業廃棄物排出量原単位(排出量/営業収益)は、グループ会社が対象

    食品廃棄物量原単位(廃棄物量/宿泊人員)は西武リアルティソリューションズと西武・プリンスホテルズワールドワイドが対象





モニタリング状況 TNFD開示指標との関係
排水量※1、水質汚染物質排出量※2をモニタリングして、開示 グローバル中核開示指標 C2.1
大気環境負荷物質排出量※3をモニタリングして、開示 グローバル中核開示指標 C2.4
再開発事業などにおいてその地域の在来種を使用する方針を策定し、実施 グローバル中核開示指標 C4.0

※1 グループ会社が対象で、排水量を個別に把握していない事業所等については取水量と同量を排水量として算入

※2 各種法令に基づき、化学的酸素要求量(COD)排出量などを開示

※3 各種法令に基づき、窒素酸化物(NOX)排出量、ばいじん排出量、硫黄酸化物(SOX)排出量、揮発性有機化合物(VOC)排出量、粒子状物質(PM)排出量などを開示