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米アカデミー受賞作「ドライブ・マイ・カー」撮影地選定秘話

米アカデミー受賞作「ドライブ・マイ・カー」撮影地選定秘話

第94回アカデミー賞(2022年3月)で作品賞・脚色賞を含む計4部門にノミネートされ国際長編映画賞を受賞。その後、世界各国で数多くの映画賞を受賞することとなった「ドライブ・マイ・カー」の印象的なシーンで使用されていたのが、グランドプリンスホテル広島の最上階「スカイラウンジ トップ オブ ヒロシマ」のバーカウンターだ。どのような理由で、この映画が広島で撮影されることになり、グランドプリンスホテル広島が使用されることになったのか。本作の広島誘致に尽力された広島フィルム・コミッションの西﨑智子氏とグランドプリンスホテル広島 広報担当の弓手に、その経緯を聞いた。

“この作品は広島には来ないな”と思っていた

―― 広島でこの「ドライブ・マイ・カー」の撮影が行われることになった経緯からお話しいただけますか。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

2009年頃から濱口竜介監督のことは存じ上げており、広島の映画祭にお越しいただいたりしておりました。この「ドライブ・マイ・カー」については、実は韓国・釜山で撮影が決まっていましたが、コロナの影響による渡航ができなくなったことで、国内での撮影に切り替えていくつかの候補地を視察されていたそうです。その一環として広島に来られましたが、監督の第一声は「広島を撮るには、僕にはまだ早い」というものでした。「広島の歴史をきちんと学んでいないのに、ズカズカ入っていってカメラを回せない」とおっしゃるのですね。濱口監督の謙虚な言葉をお聞きして、“この作品は広島には来ないな”と感じました。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

それでも、せっかくお越しいただいたので、いくつかロケ地候補をご案内しました。原爆ドームと慰霊碑を結ぶ「平和の軸線」を建設した丹下健三さんのお弟子さんにあたる谷口吉生さんが手掛けた清掃工場が広島市内にあるので、そこを監督たちにご案内しました。その清掃工場のずっと先には、師匠である丹下健三さんが建築した平和公園があります。直線でつながっているわけではありませんが、「師匠が作った平和の軸線を自分が建てた建物でふさぐことはしたくない」ということで、ガラスのトンネルを設けて、海に抜けるような構造にしているのですね。その話を監督たちにご説明すると、とても感銘を受けていらっしゃいました。そして、海側の広場をご案内しようと出たところで、監督が「ここをみさきの大切な場所にしたい……」とおっしゃいましたが、私にはその言葉が何を意味するのかもわかっていませんでした。

それから2週間ほど経過したある日、「台本ができたので広島で撮らせてほしい」というご連絡をいただきました。添付されていた台本を読むと、ご案内した清掃工場が出てきて、しかも私が監督にしたお話もセリフとして入っていました。それを読んだときには驚いて、椅子から転げ落ちそうになりましたね。そんな経験はめったにないことでした。通常は台本が先にできていて、「このシーンを撮るには広島のどこがいいか?」という相談になることがほとんどですから。濱口監督のチームの方々は、知的好奇心旺盛で、私のちょっとした歴史の話になども関心を持って聞いてくださった結果、広島が舞台に選ばれたのはありがたく思っています。

監督のイメージは明確で、一切の妥協はなかった

―― どうしてグランドプリンスホテル広島で撮影することになったのですか。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

台本の中に岡田将生さんが宿泊しているホテルが出てくるのですが、発着のシーンがあったので、車寄せがあるホテルがいいと思いました。また、カウンター席のあるバーのシーンもあったので、それらが揃っているグランドプリンスホテル広島と、もうひとつ市街地にあるホテルを監督に提案しました。

私自身、これまで何度かグランドプリンスホテル広島を提案していたので、ホテルとの信頼関係ができていました。やはり撮影のしやすさや様々な条件もあるので、それらを加味しているのは確かです。そういった意味でも、その時点では、必ずしもグランドプリンスホテル広島ありきという話ではなく、あくまで監督サイドが決定することですが、弓手さんには監督に提案する前にご相談をしました。弓手さんとは本音でお話ができる関係性なので、撮影できるかどうかを聞きやすいというのはあります。

弓手
弓手

私個人としては“選んでいただけるならば絶対にお受けしたい”と思っていました。私は広報担当でもあるので、使っていただくことでホテルの魅力を発信できると考えるからです。

過去にもいくつか西﨑さんのご紹介でホテルを使っていただいていますが、必ずしも自慢の景色が前面に使われているわけではありません。マーケティング的な観点で売上に繋がってくれたら、もちろんうれしいですが、それだけではなく、まずは作品のイメージに合致し、お役に立てるのであればというスタンスです。印象的なシーンで使っていただけたら、それなりの波及効果があると思っています。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

「ドライブ・マイ・カー」は、規模も予算も小さな作品でしたし、弓手さんも経営陣に説明するのは難しかったのではないかと思っていました。

弓手
弓手

幸いにも、出演者が有名な方たちだったので、そこから攻めました。西﨑さんからお声をかけていただくときは、演者さんたちの宿泊部屋やスタッフの方たちの控室なども一緒にご提供させていただくので、それも売上に繋がります。普段であればそれも合わせて経営陣に説明しますが、残念ながら「ドライブ・マイ・カー」にはそれはありませんでした。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

グランドプリンスホテル広島に泊まれるほどの予算がなかったと聞いています。それでもお受けいただく方向で動いてくださったのは非常にありがたかったですね。弓手さんからご連絡をいただき、監督に直接、ホテルとバーをお見せしました。候補となっていた二つのホテルをお見せしたのですが、悩んでいる印象はなく、すんなり決まりましたね。監督は場所のイメージをかなり明確にお持ちなので、妥協はしていなかったという印象です。映画にはバーが2か所出てきてホテルのバーはすんなり決まりましたが、もう1か所はいくら提案してもなかなか決まりませんでしたので。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

撮影ができるのはホテルの営業が終わった深夜からですが、弓手さんはバーテンダーもできるということで、夜中の撮影にも付き合ってくれると言ってくださいました。つきっきりで臨機応変に担当してくれる安心感も、監督に伝わったのではないかと思います。

映画の撮影というのは、それぞれの場所で応援してくれる人がどれだけいるかがとても重要だと思います。地域のみなさんのご理解があるということがベースにありつつ、グランドプリンスホテル広島さんのように“協力してくれる場所”があってこそ、良い映画ができるのだと感じています。

―― ホテル側の誰もが、撮影に対する理解はお持ちなのですね。

弓手
弓手

上層部の人間はかなり理解を示してくれていますね。なので私としても、いただいたご提案を上層部に提案しやすい環境ではあると感じています。撮影があると聞くと、スタッフも喜んでいますね。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

以前、河瀨直美監督の映画撮影もお願いしたことがありますが、そのときに監督の誕生日が近かったので、お部屋にバースデーケーキを用意してくださったこともありました。グランドプリンスホテル広島のスタッフの皆さんは、本当におもてなしの心をお持ちだということが伝わりました。

弓手
弓手

私たちにとって、それは特別なことという意識はありません。
お客様に喜んでいただくことが、私たちホテルマンの使命ですから。

ホテルの一室でアカデミー賞授賞式を見守った

―― 完成された作品をご覧になって、どのように感じましたか。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

私は上映の初日に観に行きました。日本で公開される前にカンヌで4冠を達成していましたが、あまり騒がれてはいませんでしたね。広島のメディアですら静かでした。公開当初は映画館にもあまり人が入っていなかったという印象です。アカデミー賞は3月に発表されますが、“もしかしたらアカデミー賞獲れるかも”という雰囲気になってきたのが年末あたりからで、ようやくメディアにも注目されるようになりました。とにかく公開されてから半年以上はとても静かでした。私は、“外国語映画賞は受賞できる”と思っていましたし、脚本も素晴らしいと思っていたので、“脚本賞でも受賞できる”と勝手に思っていました。

弓手
弓手

私が観たのは、かなり話題になってからでした。初見ではやはり、自分のホテルがどのように映っているのかに注目してしまいますね。とても印象的なシーンでホテルが使われていたので、「あんなに素晴らしい映画で使われている」と、当時はホテル内外で説明させていただきました。

そして「ドライブ・マイ・カー」がアカデミー賞の受賞候補になった際に、それまであまり大きな関心を持っていなかったスタッフたちも動き出し、“何かを作ろう”ということになりました。そこで、映画にも出てくる「サーブ」という車をイメージしたカクテルを作り、撮影が行われたバーラウンジで提供することになりました。受賞後、話題になり、多くのお客様のご愛飲いただきました。

―― アカデミー賞が決まったときは、どのようなお気持になりましたか。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

当日は、グランドプリンスホテル広島の一室をお借りして、記者の方々と一緒に、アカデミー賞の授賞式を見守りました。ギリギリになって弓手さんに相談をしたのですが、快くお部屋をご用意してくださいました。その時にもおもてなしの心で接してくださって、記者の方々にドリンクの用意などをしてくださいました。さらにくす玉までご用意してくださいましたね。

弓手
弓手

普段から広報担当としてメディアの方と接する機会がありましたので、“授賞式の画面を撮影するわけにはいかないし、何を撮ってもらおうか”と思っていたところ、スタッフからくす玉のアイデアが出てきました。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

ここまでやっていただけると本当にありがたいですし、ロケ地だったホテルでもあるので話題性もありますよね。今後も、何かあれば“グランドプリンスホテル広島にご相談させていただきたいな”と改めて思いました。

弓手
弓手

今でもバーにいらっしゃるお客様から「ここが『ドライブ・マイ・カー』の撮影で使われた場所ですよね」と言われるので、改めて“すごい作品だった”と思いますね。“文化の担い手”といったような、大層な意義を感じられるところにはまだ至っていませんが、今後、そのように感じられるよう、西﨑さんのお役に立てるよう精進したいと思います。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

アカデミー賞作品が広島に来るなんて、そう何度もあることではありません。私は“これは大ヒットする!”と思いながら広島をご紹介しているわけではなく、常に目の前の作品に真摯に向き合っています。

広島は、映画の撮影にとってすぐれた場所だと思っています。海、山がすぐ近くにありますし、東京の設定で撮影できるような街もあります。また、広島らしい路面電車もありますし、少し足を伸ばせば田舎の風景もあります。様々なロケ地が近い場所にあるので、撮影隊にとっても便利な場所だと思います。また福山市にはオープンセットもあり、時代劇の撮影が可能です。広島市内にはおいしいお店も多いので、それもスタッフさんたちには好評ですね。

西﨑智子氏
西﨑智子氏

今後も、広島のみなさんが喜んでくださったり、誇りに思ってくださるように地道にやっていこうと思っています。しかし私一人でできることではないので、今後もグランドプリンスホテル広島や街のみなさんにもご協力をお願いしたいと思っています。

グランドプリンスホテル広島関連作品

映画「こいのわ 婚活クルージング」(2017)
─ 客室・ロビー・プールなどロケ/演者・スタッフ宿泊・スタッフルームなどでご利用いただく。
ドラマ「日曜劇場 この世界の片隅に」(2018)
─ ホテルそばの海岸沿いにてロケ/演者・スタッフ宿泊・スタッフルームなどでご利用いただく。
映画「朝が来る」(2020)
"カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション2020"
─ レストランロケ/演者・スタッフ宿泊・スタッフルームなどでご利用いただく。
映画「ドライブ・マイ・カー」(2021)
─ ホテル玄関・バーロケでご利用いただく。
ドラマ「僕もアイツも新郎です」(2022)
─ チャペル・披露宴会場・ロビー・プールサイドなど/演者・スタッフ宿泊・スタッフルームなどでご利用いただく。
映画「TOUCH」(2024)
─ ホテル内のロケはなし/演者・スタッフ宿泊・スタッフルームなどでご利用いただく。

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